2024.05.16更新
こんにちは。
福岡・佐賀・長崎の税理士法人グループ アップパートナーズです。
昨年末に公表された国税庁の報道発表資料「令和4年事務年度における相続税の調査等の状況」によると、令和4年事務年度の相続税の調査件数は8196件で、前事務年度から1879件の増加で、伸び率は29.7%、約3割増加していました。
この調査件数8196件の内、非違件数は7036件で、非違割合は85.8%、税務調査を行ったほとんどの案件で申告漏れが指摘されていたことになります。ちなみに、申告漏れ課税価格は前事務年度から400億円増の2630億円となっていました。
相続税の調査に至る経緯は、死亡届が住所地の市区町村へ提出されると、そこから所轄の税務署へ死亡の事実が通知されます。その際に亡くなった方が所有していた固定資産や住民税の課税所得等の情報も併せて通知されます。これを受けて所轄の税務署は、亡くなった方の生前の申告状況や納付状況、金融機関からの支払調書など、税務署が把握している亡くなった方の財産状況等と照らし合わせて、税務調査の必要性の有無を判断しています。全国の国税局と税務署はネットワークで結ばれており、納税者の財産や納税の記録を一元管理しています。
個人事業主であれば所得税の申告状況、法人の経営者であれば法人税の申告状況、財産債務調書、各種法定調書など、把握している情報を様々な角度から検証し、実地調査の前に入念に事前調査をしています。一般的には相続税の申告後、1年から1年半後くらいに、税務調査の事前通知がくる傾向にあります。絶対では無いですが、申告後3年経過しても、事前通知が無い場合は、調査の対象とはならなかったと捉えています。
調査対象に選定され、いざ実地調査が行われる際には、調査官はどこを見ているのでしょうか。法人税、所得税の調査も同様ですが、実地調査開始時に、まずは納税者の概況の聞き取りが行われます。亡くなった方の生前の趣味や、ライフスタイル、死亡原因、職歴、出生地、親族関係など、世間話をしながら聞き取りが行われます。
調査対象に選定したということは、何かしらの相続財産の申告が漏れているのではないか?ということで来ているので、この様な世間話から、事前調査の内容と実態のすり合わせを行っているのです。また、調査官は納税者の自宅、室内も隈なく見ています。例えば、室内のカレンダーに証券会社名や、保険会社名が入っていたら、上場株式等の申告はあったかどうか、該当する保険会社の保険の申告があったかどうかなどをチェックしています。事前に所得状況をある程度把握しているので、それに見合ったライフスタイルなのかどうか世間話や自宅の状況等を見て、申告された課税財産と実態が見合っているのかを見ているのです。
相続財産の申告漏れで最も多いのは「現預金」で、全体の約3割を占めています。その中でも調査官は、名義人と実際の所有者が異なる、「名義預金」の有無を重視しています。お孫さんの将来の為にと、お孫さん名義の通帳を作成し貯金する。しかし、通帳、印鑑等の管理は亡くなった方であれば、それは名義預金と見なされ、相続財産となります。この様にならないためには、お孫さんまたは親へ通帳、印鑑を渡す、贈与契約書を作成する、必要な場合は贈与税の申告をする必要があります。
令和6年1月から相続財産に持ち戻される生前贈与の持ち戻し期間が最大7年に延長されました。これまで以上に、名義預金、贈与に対するチェックの目は厳しくなるものと思われます。今後の相続税申告の際に参考にしていただけたら幸いです。
Takahiro Mizoguchi
税理士法人アップパートナーズ
佐賀伊万里オフィス